【代表・西方インタビュー】クリエイターの思いを実現することが第一。そのためのデータ分析-ミッション・ビジョン・バリューができるまで(後編)-

代表取締役・西方智晃

次に記すリーン・ニシカタのミッション、ビジョン、バリューは、自分の経験や思いからできたものです。

  • ビジョン:「価値の創出に熱中できる世界」の開拓
  • ミッション:“現場”における意思決定者の参謀役に
  • バリュー:圧倒的リスペクト、徹底的アウトプット、自律的チームワーク

前編では、幼少期から独立前までの原点ともいえる経験を紹介しました。後編では、独立に至った経緯と、ミッション・ビジョン・バリューの内容をお伝えします。


ディー・エヌ・エーを辞め、別会社を経て独立へ

ディー・エヌ・エーで自分のスタイルを確立し、やりたいことができるようになってきたと実感していましたが、3年ほど経つとガラケーではなくスマートフォンのアプリに市場が移っていきました。アプリ市場はこれまでより本格的なゲームが求められ、さらに開発規模も予算も大きくなっていきました。

開発費を投資するためには、成功する根拠やデータが必要になっていきます。「面白いゲームを作りたい」というアイデアがあっても、思いだけで開発できる状況ではなくなっていったのです。クリエイターやエンジニアはゲームを作りたいのに、作る手前の説得に時間をかけなくてはならない。また、各々に課せられる月の売上目標達成のため、長期的な視野で投資をする施策がとりづらかったのです。そんな状況が、あまりいいとは思えなくなっていました。

同時に、ゲーム以外のサービスやアプリで面白いものがどんどん出てきており、外の世界にも革新的な技術が潜んでいるのではないかと考えました。まだ世の中に出ていない面白いものがあるなら、関わっていきたい。そんな思いでディー・エヌ・エーを退社することにしたのです。

退社した後は、知人が創業したデータ分析の会社にお世話になりました。ゲーム分析を中心としたコンサルティングサービスの会社で、自分はそこでLeanplumという外資のサービスに出会います。アプリを利用しているユーザーの分析やプッシュ通知などが包括的に組み込まれたツールで、今でいうマーケティングオートメーションのような考え方で作られており、当時はとても画期的でした。

分析結果に伴った施策を提案しやすく、さらにその施策によってアプリのグロースに貢献できるのはとても魅力的でした。そこで会社を辞め、Leanplumを主体とした会社を興すことにした。それが、リーン・ニシカタです。


リーン・ニシカタの創業
クリエイターを主体とした支援を

リーン・ニシカタを創業したのち、柱にしようとしていたLeanplumが日本から撤退してしまいます。やむを得ず、他に引き合いのあった仕事にシフトしていきました。

ディー・エヌ・エー時代に確立した、データ分析による課題抽出や施策立案、分析基盤環境の設計・構築など、これまでの仕事をより幅広く提供することにしたのです。

リーン・ニシカタの創業時から大切にしていたのは、「面白いものを作り出してほしい」という思いでした。子どものころはゲームとゲーム作りに慣れ親しみ、ディー・エヌ・エーではエンジニアと力を合わせてきました。おもしろいものは、クリエイターの思いから生まれると自分は確信しています。だからこそ、障壁やしがらみで押しつぶされている部分を、データ分析などのスキルで解消していきたいのです。

開発規模が大きくなると、関係者が増え、それぞれが自分の考えを言います。多くの人が納得するためには、みんなの意見を取り込まざるを得ない。ところが、それでは角が取れて丸くなってしまいます。本来は、ゲームクリエイターが作りたいものを作るほうが、ずっと個性が出るし、とがったもの、魂の入ったものが作れます。輝くアイデアや熱量が薄まっていく現場を目の当たりにして、本当にもったいないと感じていました。

自分ができるのは、個性的なアイデアや熱量をできるだけそのままに、成功確率を上げていくことです。

ゲームの面白さは多岐にわたりますが、今のゲーム開発に関わるクリエイターの方はファミコン世代が中心で、「その瞬間の面白さ」「爽快感」を重視する方が多い。ただ、現代のゲームには、長い期間を通して飽きない工夫と、そのための基礎的な設計が不可欠です。さらに、それらの設計をしたうえで、上層部や関係者の同意を得なくてはなりません。

クリエイターの方が思う「こうしたい!」はそのままに、設計や説得材料といった足りない部分をサポートしていけば、思いが実現する確率が高まり、結果として面白いゲーム作りにつながります。

ここで言う「クリエイター」は、ゲームクリエイターに限りません。情熱をもって、世の中を豊かにするプロダクトを作ろうとしている人は、職能関係なくクリエイターだと考えています。また、プロダクトもゲームに限りません。


ビジョン:「価値の創出に熱中できる世界」の開拓

そこで、自分たちのビジョンは次の通りになりました。

「価値の創出に熱中できる世界」の開拓

作ろうとしているプロダクトを、何のために出すのか? そのプロダクトによって何を提供したいのか。 そのプロダクトがあると、生活がどう変わるのか。

上層部からの指示でなく、自ら作りたいと思うものには、そういった作り手の意思があります。その意思や魂を、貫き通してほしいのです。

クリエイターの方が、価値の創出に熱中できるように、自分たちはそれ以外の部分をサポートします。データ分析の数字を武器にして、予算獲得や周囲の説得、上司の承認といった調整作業をできるだけ短縮し、クリエイターの方には、もっとも大切な価値の創出に熱中してもらいたいのです。


ミッション:“現場”における意思決定者の参謀役に

ビジョンを実現するために、リーン・ニシカタのミッションは、次の通りになりました。

“現場”における意思決定者の参謀役に

「現場における意思決定者」とは、実際にものづくりをしている方々を指し、これまで書いてきた「クリエイター」と同義です。繰り返しになりますが、情熱をもって、世の中を豊かにするプロダクトを作ろうとしている人であれば、クリエイターだと考えています。

クリエイターが意思決定する際、材料のひとつとなるのはデータです。そのデータを、クリエイターの思いに寄り添った形として見せていきます。例えば、「クリエイターが実現したかった内容が達成できたと判断できる」「分析結果が施策につながる」といった視点でデータを見て、表現していくのです。

他のプロダクトで有用だったデータを提供したとしても、対象となるクリエイターの思いやポリシーにそぐわないものなら意味がありません。

クリエイターが意思決定する際の判断材料となりうるデータを提供する。つまりは、参謀役としての役割を全うしてこそ、よいプロダクトが実現するのです。


バリュー1:圧倒的リスペクト

自分たちのバリューは3つあります。1つ目は、圧倒的リスペクト。

過去に一緒に仕事をした中で、尊敬している方がいます。その方は、自分ができないことを素直に認め、できる人にお願いするというスタンスでした。それまでの自分はひとりで何でも抱えようとしていたため、できないところは放棄せざるを得ません。でも、できる人にお願いできれば、可能性が広がると知りました。

そのためには、自分ができないことができる人に対して、素直にリスペクトする必要があります。どんな人でも、自分より優れている部分があるはず。その部分で力になってもらって、より大きな成果を出したいのです。


バリュー2:徹底的アウトプット

バリューの2つ目は、徹底的アウトプット。

指示されたことだけをやるのは、本質的ではありません。指示を出した理由、本当のニーズなどに想像力を働かせて、アウトプットしていくことが、相手に喜んでもらう近道です。

それは、今も一緒に仕事している弊社の請川さんから学んだことです。彼女に出会うまでの自分は、遠慮したり忖度したりして、相手に確認せず想像に任せて行動していました。でも、本質に近づくためには、積極的にわかるまで質問する必要もあるでしょう。相手のオーダーに対して、別の案を提示する場合もあります。ときに小さな衝突が生まれるかもしれませんが、相手の立場になり、本当の気持ちを理解することから始めて、アウトプットにつなげなくてはならないのです。


バリュー3:自律的チームワーク

「圧倒的リスペクト」で書いた経験は、チームワークの大切さも学びました。不得意なことはチームメンバーでカバーしていけばいいのです。

自分は得意なことで貢献し、できないことは周囲に助けてもらう。それにより、各自が得意分野に集中できます。それぞれがリスペクトし合い、自分の得意なことに集中する。それによって、大きな成果をもたらすと考えています。

リーン・ニシカタの掲げるビジョン・ミッション・バリューは、自分の経験に基づいています。だからこそ、簡単にはゆるがない、大切なものなのです。クリエイターの方を第一に考え、自分たちは得意分野で貢献していきます。

(取材・執筆 栃尾江美